「牛飼が歌よむ時に世のなかの新しき歌大いにおこる(伊藤左千夫)」
山崎樹一郎の新作『ひかりのおと』を見終えたとき、この歌が、遠い記憶の底から甦ってきた。
岡山の真庭の土地から発せられた歌ならぬ映画は、日本のいまを照らし出す。新しき歌、大いにおこれ。(パンフレットより抜粋)
上野昻志|映画評論家
土地独特の人間模様、将来見えぬ不安、見つめ直される家族のあり方。都市から遠く離れ、岡山県真庭市の深い山なかで農業をつづける映画作家・山崎樹一郎が酪農家青年の葛藤と未来へのささやかな希望を「土地からの視点」で描いた長編初監督作品。
ロッテルダム、鳴り止まぬ喝采 山深き“真庭”から世界へーー
五ヶ月にわたり岡山県内全域にて、公民館、ライブハウス、旅館、学校、カフェ、古民家、田んぼなど、全51会場100スクリーンでのキャラバン巡回上映を経て、いざ全国へ。
〔あらすじ〕
岡山県北、山深きところ。代々酪農を営む狩谷家の長男・雄介は音楽を志し東京で暮らしていたが、父の怪我をきっかけに家業を手伝うため故郷に戻った。しかし消えぬ音楽への思いや酪農の現状、恋人との行き違いから、この土地を引き継ぎ、酪農家として生きていくのか迷いを抱えていた。
恋人・陽子には若くして逝った夏生との間に幼い息子がいた。夏生の「家」にとってはその子が唯一の跡継ぎであるため、陽子が息子とともに暮らすには今の生活を続けるしかなかった。
初日の出を見る事が慣わしである狩谷家。妹も帰省し、いつもと変らぬ年明けを迎えようとしていたある日、雄介がかつて酪農の手解きを受けた叔父・義行の牛舎で火災がおこる。雄介の中で何かが静かに変わり始める……。
「牛飼が歌よむ時に世のなかの新しき歌大いにおこる(伊藤左千夫)」
山崎樹一郎の新作『ひかりのおと』を見終えたとき、この歌が、遠い記憶の底から甦ってきた。
岡山の真庭の土地から発せられた歌ならぬ映画は、日本のいまを照らし出す。新しき歌、大いにおこれ。(パンフレットより抜粋)
上野昻志|映画評論家
本作は、農家とこの時代に伝統的な生活を続けることで生じる農家の問題についての映画であり、実際の農家たちとともに牧場で撮影された。美しくリアルだ。(映画祭公式サイトより抜粋)
ヘルチャン・ズィルホフ|ロッテルダム国際映画祭プログラマー
この映画にしか出ない、出せない、気配やゆらぎ、空気感といった、その場の持つ特長、特異性を大切にし、風景そのものも映画の中での重要な要素としてみせることで、もう一つの真庭の場所の持つ魅力を垣間見せてくれている。(パンフレットより抜粋)
岸本和明|奈義町現代美術館 館長
『ひかりのおと』は、映画によって農業を語るのでもなく、農業から映画を学ぶのでもない。グローバル化の中で、いかにしてわたしたちは自立できるかを考えさせてくれるのである。(一部抜粋)
梁木靖弘|アジアフォーカス 福岡国際映画祭ディレクター
家族経営農家が世代交代(継承)していく時、後継者が自分の意志で農業を選んだかどうかが大切なように思う。特に酪農のように何十年もかけて、牛を増やし、借金をし、牛舎や設備を整備しながら経営を軌道に乗せてきた農家にとって、経営の継承は大きな課題。酪農は消極的に継承してやっていける程甘くないだけに、相当な志や覚悟、やりがいが必要だと思う。 映画では、主人公が酪農を廃業した叔父に「お前には家族がいるから、できるかもしれん」と、背中を押されるシーンが印象的だった。 「農業がしんどい時代だからこそ、家族経営にこそ強みがある」。そんなメッセージが含まれているように思った。
大塚雅史|農家・ファーモニーズまにわ 代表・『ひかりのおと』出演
岡山県を舞台に描かれる酪農家青年と人々の葛藤は、人生は日々の小さな決心の積み重ねなのだと静かに語る。その地で農業を営む監督のリアリティが貫かれた映像は、東日本大震災の深刻な痛みをも私に突きつける。
ヤン・ヨンヒ|映画監督『かぞくのくに』
地方の若者からお年寄りの方に見てほしい。
都市で悩み人生の岐路に立っている若者や中年世代にも見せたいです。
西口和雄|NPO法人 英田上山棚田団
映画は時として、新奇なものや繊細な表現が高く評価されがちだ。しかし、今、私たちが必要としている映画は『ひかりのおと』のような、鈍く黒光りするような映画だと僕は確信している。(パンフレットより抜粋)
本田孝義|映画監督『モバイルハウスのつくりかた』
この映画には、中山間離島地域における淡々とした日常生活と、緩やかに訪れる暗い影と、そのなかに見え隠れする小さな光とが、幾重にも織り込まれている。家族より少し広い程度の小さな地域コミュニティにおける出来事が、登場人物たちの独特な立ち振る舞いによって描き出されているといえよう。
山崎亮|コミュニティデザイナー
山崎樹一郎監督の『ひかりのおと』は純朴で美しい心の映画である。この映画は日本の農村にいる若者が追い求める生活や理想、そこから生まれる衝突、そして未来に対する希望を見せてくれる。彼らの生活を観察するのみならず、そこに身をおいて理解しようと試みているところに、この作者の気持ちが見て取れる。だからこの映画には感情があふれているのだろう。
私もかつて農村で過ごした静かで激しい歳月を思い出した。
ジュ・リークン|現像芸術センター 芸術監督・映画キュレーター
中国で初めて出会った山崎樹一郎は自らの映画を作り上げる基盤を「見えない予算」と呼んでみせた。『ひかりのおと』を映画美学や演技の側面から語れば、そこには毀誉褒貶あるだろう。ただ、重要なことはたった一つで、10年後には山崎樹一郎は必ず、日本映画にとって極めて特異かつ重要な映画作家になるということだ。『ひかりのおと』を見ること自体は、今でも、10年後でも別に構わないと思うし、もしかしたら10年後の方がもっとこの映画のことがわかるかも知れない。ただ、『ひかりのおと』を今見ることは、10年後にできる極めて重要な映画の「見えない予算」となることに、確かに通じている。その機会は、逃さないのがよい。
濱口竜介|映画監督『PASSION』『なみのおと』
この映画が岡山県内を、異様に動員しながら巡回上映してた時に、なんかやばい渦起こってる、と思って観に行って、すんごいやる気出て帰ってきた。やる気っていうのは今生き続ける気。
西山真来|女優『へばの』『おだやかな日常』
地域に根を下ろし、農業に全力で挑んでいる監督だからこそ描けた、とても誠実で血の通った映画。
どう生きるべきか、どうあるべきか。主人公の葛藤は、形は違えど万人にとって共通するものと思います。さまざまな人とのつながりの中で、ゆっくりと座標を定め歩み始める姿を、ぜひ多くの人に観てもらいたい。
深く静かに、心の奥に収まる映画です。
三浦正之|酪農家・『ひかりのおと』ロケ地提供
山崎樹一郎(やまさき・じゅいちろう)
1978年大阪出身。岡山県真庭市在住。学生のころ京都国際学生映画祭の企画運営に携わる。大学卒業後、映画監督・佐藤訪米の経営する「祇園みみお」にてスタッフ兼助監督として過ごし、8年間の京都生活を止め父の実家である真庭市に移住。現在、農業を営む。本作は『紅葉』に続く真庭作品第二作目となる。
2011年/日本映画/カラー/16:9/HDV/89分/ステレオ
出演:藤久善友 森 衣里 真砂 豪 佐藤豊行 中本良子 佐藤順子 辻 総一郎 坂本光一 大倉朝恵 浅雄 涼 大塚雅史
脚本・監督:山崎樹一郎
プロデューサー:桑原広考 加納一穂 岡本 隆│撮影:俵 謙太│照明:大和久 健│録音:近藤崇生(丹下音響) 大森博之
音楽:増岡彩子│監督補:木村文洋│演出助手:兼沢 晋 進 巧一│照明助手:吉川慎太郎 蟻正恭子│録音助手:野崎貴史
衣装:園部典子│メイク:横田蕗子│制作主任:冨永威允│制作進行:黒川 愛 梶井洋志 堀 理雄 藤田光平 加藤稚菜
宣伝美術:竹内幸生│宣伝写真:杉浦慶太│翻訳:Anthony Scott スコット美晴
挿入歌:「青空」 作詞:みど 作曲:あやこ│音楽協力:吉田光利 地底レコード│特別協力:三浦牧場
|製作協力:シネマニワ|製作・配給:陽光プロジェクト